宇都宮市2026.03.27

PT調査が導き出す、
都市の課題と独自の未来像

Vol.3 LRTと「宇都宮モデル」
が示す、地方都市の未来

宇都宮市では、ネットワーク型コンパクトシティ(NCC)の考え方のもと、ライトラインを都市構造の骨格として位置づけたまちづくりを進めている。開業から約2年が経過した今、ライトラインは市民の暮らしの中でどのように利用され、都市にどのような変化をもたらしているのか。その実像と今後の展望を探った。

LRT(ライトライン)東側開業の成果:生活インフラとして定着

ライトラインが走り始めて2年ほど経ちますが、数字以上に大きいのは、市民の「日常の足」として捉えられ始めている実感です。累計利用者数は1,200万人(令和7年12月末時点)を超え、平日の通勤・通学に加えて、休日の買い物やイベント、医療機関への通院など、暮らしの中のさまざまな場面で利用されるようになってきました。

宇都宮市都市整備部都市計画課都市計画グループ 係長 髙秀賢史さん。後ろに見えているのは、JR宇都宮駅直結、北関東最大級のコンベンション施設「ライトキューブ宇都宮」と、複合商業施設「ウツノミヤテラス」。

沿線の住宅市場を見ても、停留場から歩いてアクセスしやすいエリアへの関心が高まり、賃貸住宅や分譲マンションの動きにも変化が出ています。住まい選びの条件として「ライトラインで通勤・通学できるか」「駅まで歩けるか」といった視点が加わり、これまで「車前提」で成立していた生活スタイルが、変容し始めていると感じています。

同時に、「totra(トトラ)」という地域連携ICカードの導入や、新幹線の始発と終電に乗り継げる時間帯で設定した運行ダイヤ、比較的短い運行間隔も、行動変容のうえで大きな役割を果たしました。乗り継ぎのしやすさや支払いのしやすさを高めることで、クルマから公共交通へ移りやすい環境が整い、幹線道路の混雑や中心市街地での駐車需要の偏りにも、徐々にですが変化が見え始めています。

日本で75年ぶりとなる新規敷設の路面電車として令和5年に開業したLRT(ライトライン)。開業初年度から黒字を達成している。

LRT導入の議論の際には、「本当に利用されるのか」「地方都市で成り立つのか」といった声も少なくありませんでした。しかし、実際には、交通系ICカードのデータなどで見ると、通勤定期だけでなく中心市街地への短時間の私事利用や、沿線商業施設へのアクセスといった多様な使われ方が蓄積されてきており、「暮らしの一部として使われている」という手応えが、ようやく数字でも裏づけられつつあります。

LRT(ライトライン)利用の定着は、単に乗客数が増えたという話ではない。住む場所や働き方、日常の外出の組み立て方といった、市民のライフスタイルそのものをゆっくりと変えつつある。宇都宮市は、その変化を都市活動調査で丁寧に記録しながら、従来の評価軸ではとらえきれなかった便益をすくい上げようとしている。

スーパースマートシティを目指す「宇都宮モデル」の意義

LRTのような大規模事業では、費用に見合う効果があるのかどうかを示す必要がありますが、これまでよく使われてきた指標は、「(通勤・通学などの)時間がどれだけ短縮されたか」といった交通面の評価が中心でした。もちろん、それも重要な視点ですが、それだけでは、まちの価値や暮らしの質の変化といった、地方都市が本当に知りたい部分がうまく表現できないというもどかしさがありました。

「過度なクルマ社会を脱却し、公共交通機関や自転車などを積極的に利用することは、市民の健康づくりにも繋がる」と話す、宇都宮市都市整備部都市計画課都市計画グループ 係長 髙秀賢史さん。

わたしたちは、「NCC(ネットワーク型コンパクトシティ)」の都市構造の考え方を土台に、子どもから高齢者まで、誰もが豊かで便利に安心して暮らすことができるまち『スーパースマートシティ』の実現を目指します。

そこで宇都宮市では、都市活動調査のほかに土地利用データや独自のアンケート調査などを組み合わせて、「地価や家賃の動き」、「中心市街地への来訪頻度」、「沿線の歩行環境の変化」などを定量的に追いかけながら、LRT(ライトライン)整備の波及効果を幅広く評価しています。たとえば、ライトライン停留場から歩いてアクセスできるエリアで人口構成や地価がどう変わったのか、市民の歩数や外出頻度がどう変化したのか、といった視点です。

健康との関係も、その一つです。LRTやバスなどの公共交通機関を使うことで、歩く歩数が増加している傾向を確認しています。その蓄積が、医療費抑制に寄与し得るのか、試算しています。こうした公共交通の整備により、ライフスタイルやまちづくりに与える変化を「宇都宮モデル」として評価し、駅西側へLRT(ライトライン)が延伸された場合、どのような効果があるかを算定しています。

宇都宮市が目指す「スーパースマートシティ」とは、「地域共生社会」、「地域経済循環社会」、「脱炭素社会」の3つの社会が、「人」づくりの取組や「デジタル」技術の活用によって発展する「夢や希望がかなうまち」。

私自身は、費用便益費(B/C)で算出される結果のほかに、「どのような効用があるか」という視野を広げることが大事だと考えています。LRT(ライトライン)があることで、住みやすさや事業のしやすさが高まり、結果として税収や投資がどう変わるのか。そうした長期的な視点も含めて、都市活動調査を材料にしながら、まち全体の価値を丁寧に説明していくことが、宇都宮モデルの中核にあると思っています。

LRT(ライトライン)西側延伸:2036年、都市軸の完成へ

LRTは、東西基幹公共交通として、都市全体の骨格を形成するものであり、現在は、JR宇都宮駅東口から芳賀・高根沢工業団地方面に伸びる「東の軸」のみが動いている状態です。今後、駅西側から都心部を貫く「西の軸」の整備を進めていく予定であり、2036年3月の開業を目標としています。

計画では、JR在来線を跨ぐ高架橋で東口から西口側に渡り、大通りを通って教育会館へ向かう、約4.9km・12停留場の区間を新たに整備します。その過程で、車線数の減少や歩道空間の確保、バス路線の重複部分の整理など、道路空間の使い方を大きく組み替える必要があります。「クルマ優先」から「人と公共交通を軸にした大通り」へと発想を切り替える象徴的なプロジェクトになります。

需要予測では、東西合わせたLRT利用者数は、平日1日あたり、31,500人程度と見込んでいます。ここでも、平成26年県央広域都市圏生活行動実態調査や令和4年都市活動調査などの結果を前提に、人口や土地利用の将来見通しを組み合わせて予測を行っています。
さらに、LRT(ライトライン)の駅西側延伸については、JR宇都宮駅西口の駅前広場の再整備や周辺街区の再開発、官民連携による都市機能の更新など、駅西口エリア全体のまちづくりと一体的に進めていく必要があります。時間もコストもかかる取り組みですが、この西側が完成して初めて、NCCの中で想定してきた「東西の公共交通軸に拠点を結びつける都市構造」が、現実の姿として見えてくると考えています。

「乗ってみた」から「暮らしの足」へ──ライトラインが暮らしに根付いたあとのまちづくり

令和8年度に予定している次回調査は、LRT(ライトライン)東側開業から3年が経過したタイミングで実施するので、「一度乗ってみよう」という段階を越えた、生活に根付いた利用実態をとらえることができると期待しています。

前回の都市活動調査が行われたのは令和4年。

前回と同様に、移動だけでなく在宅勤務やオンラインサービス、育児・介護といった生活行動も含めて尋ねることで、「どのゾーンにどんなライフスタイルの人が住んでいるのか」「どの停留場が生活の拠点として機能しているのか」を、より解像度を高く掴めるようにしたいと思っています。その結果は、拠点形成の強化に向けた施策展開の基礎資料や,バス路線の再編に伴う市内公共交通機関の階層構造について検討を行い、各交通機関が担うべきターゲット(移動者の距離帯、属性等)を明確化し、必要とされるサービス水準の検討にも活用していく予定です。

100年後を見据えたまちづくりのためにPT調査の重要性を解く髙秀係長。

私自身、都市活動調査とLRT事業を組み合わせて検討・実施していくプロセスに宇都宮市のまちづくりの特徴が表れていると感じています。データに基づいて施策を考え、実行し、また次の調査で結果を確かめる。その繰り返しの中で、都市の姿を少しずつコンパクトに磨き上げていくことが、人口減少時代の地方都市に求められているのではないでしょうか。


宇都宮市へのインタビューを通じて、都市活動調査が単なる交通データではなく、クルマ社会からの脱却とネットワーク型コンパクトシティ(NCC)形成を支える「都市のこれからを描くための基礎資料」として位置づけられていることが、はっきりと見えてきたのではないだろうか。人口減少の局面にありながら、LRTの採算性だけでなく、地価や健康、まちなかの回遊性といった視点を重ね合わせて都市の価値を語ろうとするスーパースマートシティを目指す宇都宮市の姿勢は、全ての地方都市にとって、大きなヒントとなるはずだ。