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PT調査が導き出す、
都市の課題と独自の未来像
Vol.1 宇都宮がPT調査を
続ける理由─
都市活動を把握するまちづくり
続ける理由─
都市活動を把握するまちづくり

現在の人口が約52万人弱の宇都宮市は、持続的に発展していく「未来志向のまち」として、「今を生きる市民はもとより、次世代の子どもたちが豊かで便利に安心して暮らすことができ、夢や希望がかなうまち「スーパースマートシティ」」を目指しています。その「スーパースマートシティ」のまちづくりの土台となる「ネットワーク型コンパクトシティ(NCC)」の実現に向けて、さまざまな施策を積み重ねてきました。実際に市民の行動がどう変わったのか、どこが変わっていないのかを、PT調査(都市交通調査)で得たデータで把握しながら次の施策につなげていきたいと考えています。
クルマ社会からの転換:宇都宮が抱えてきた都市構造の課題
宇都宮市は、これまで自家用車に依存する割合が非常に高い、いわゆるクルマ社会の都市でした。中心市街地の空洞化や、郊外への市街地の拡大といった課題も、全国の地方都市と同様に抱えてきたと思います。だからこそ、これからの人口減少時代に向けて、都市をどう維持していくか、どこに機能を集め、それらをどう結んでいくかという視点が必要になりました。
宇都宮市都市整備部都市計画課都市計画グループ 係長 髙秀賢史さん。「NCC形成ビジョン」を掲げ、PT調査の計画から運営までをまとめる中心人物。
そこで宇都宮市では、平成20年に策定した「第5次総合計画」に、今後の少子・超高齢社会、人口減少時代などを見据えた長期的なまちづくりの方向性(将来の都市空間の姿)として、『ネットワーク型コンパクトシティ(NCC)』を全国に先駆けて示しました。NCCとは、拠点をつくって居住や機能を集約するだけではなく、その拠点同士を公共交通でつないで、誰もが移動できる都市を表す考え方です。また、平成27年には「NCC形成ビジョン」において、NCCの都市の将来像をより明確にしました。さらに、令和5年には「第6次総合計画後期基本計画」を策定し、目指すまちの姿として「スーパースマートシティ」を掲げ、NCCを「スーパースマートシティ」を支える「まちづくりの土台」と位置づけています。なぜなら、宇都宮市が目指す「スーパースマートシティ」とは、「地域共生社会」、「地域経済循環社会」、「脱炭素社会」の「3つの社会」が発展する「夢や希望がかなうまち」であり、この「スーパースマートシティ」を実現していくうえでは、その前提として、「移動できる」「拠点で生活が完結できる」都市構造が必要になるからです。
そのNCCを具体の都市の骨格として支えるのが、LRT(ライトライン)を含む基幹公共交通だと考えています。日本でも有数の巨大工業団地を抱える市東側に伸びるLRT(ライトライン)は、単に新しく導入した交通手段ではなく、都市の骨格を再編し、クルマから公共交通への転換を進めるための、重要な基幹軸でした。ここをどう作り、どう定着させるかが、宇都宮の都市構造の将来に直結すると考えています。
PT調査は、市民の行動変容を示す“根拠”になる
私がPT調査を重要だと考える理由はシンプルです。結局、まちづくりとは、行政がどれだけ施策を打っても、市民の行動が変わらなければなりません。都市計画も交通政策も、「目的」ではなく「手段」です。では、その「手段」によって市民の移動はどう変わったのか、行動範囲はどう変わったのか、生活はどう変わったのか。それを示す“根拠”が必要になります。
2023年8月に開業したLRT(ライトライン)。市の東側の工業地帯と中心地を繋ぐルートを採用。2024年度は1億9000万円の利益を出し、地方の鉄道モデルとして大きな注目を集める。
行政には説明責任があります。私たちとしては、常にデータに基づいて「何が起きているのか」を語れる状態にしておきたいのです。市民説明会などでも、根拠となるデータが古いと「何年前のデータで言っているんだ」と言われます。社会の変化が激しい中で、10年以上前のデータだけで説明しても、説得力は持たせにくいです。だからこそ、一定の頻度で調査を行い、変化を数字で語れる状態にしておきたい。
PT調査は、交通だけのデータではありません。市民の一日の生活、行動の実態を捉えるデータです。だから、交通政策部局だけでなく、都市政策、LRT整備部局など、複数部局が横断的に使える。そういう意味でも、調査を実施する価値があると思っていますし、その横断的な利活用ができていること自体が、財政部局への説明材料にもなっています。
市が主導する理由──次の施策を展開していくための生活者視点のデータの必要性
PT調査を継続的にやるうえで大変なのは、やはりまず費用です。調査の必要性を財政部局に説明し、予算化してもらわないといけません。その際に私が伝えているのは、「根拠ある説明ができないと、施策が市民に届かない」という点です。データがあるからこそ、行政として説明できる。説明できるからこそ、市民理解を得て次の施策につなげられる。そこを訴えて予算化してもらっています。
もう一つは、人の入れ替わりです。自治体では定期的に人事異動があるので、前回のPT調査から期間が空くと、ノウハウが分かる人がいなくなるリスクがあります。ここは組織的に工夫していて、担当を1人に固定せず、副担当も含めて2人組で回す、年齢差も含めて経験者と若手を組み合わせる、過去担当者に聞ける風土をつくる、必要に応じて勉強会をやる、といった形で知識が途切れないようにしています。毎年の定型業務ではないからこそ、一度「分からない」状態になると調査を継続できなくなる。そこは意識的に避けたいと思っています。
都市計画の知識と経験は長年、担当者間で引き継がれてきた。
また、調査結果についても、都市政策だけでなく交通政策、LRT整備など複数部局で使っているので、部局連携そのものが、調査の継続の土台にもなっています。ひとつの調査結果を、庁内で横断的に使える形にすることは、継続のためにも大事だと思っています。
次回、令和8年度調査:LRT開業3年後の“本来需要”を捉える
令和8年度に予定している次回調査は、非常に重要な回です。理由は、LRT(ライトライン)東側が開業して3年が経つタイミングだからです。開業直後は、全線新設の路線ですので「ライトライン(LRT)に“乗ってみたい”需要」が一定数ありました。これは悪いことではないのですが、政策効果を語るうえでは、生活に根付いた“本来の需要”を見たい。3年経つと、だいぶ生活に浸透してきて、“乗ってみたい”需要も落ち着いてきます。その段階でデータを取ることで、公共交通への転換がどの程度進んだのか、市民の行動がどう変化したのかを、より確かな形で示せると考えています。
また、令和4年の調査では、都市活動調査として「移動だけでなく活動」を捉える設計を入れました。これはコロナ禍を契機に、リモートワークなど新しい生活様式が広がったことが大きいです。移動がなくても仕事や目的を達成できる時代に、まちづくりの基礎データとして「在宅」「オンライン」「デジタル利用」の実態を押さえる必要があると考えました。実際、宇都宮市民の在宅勤務の割合はおおむね4%程度で、地方都市圏の平均とも近い水準でした。一方で、ネットショッピングの利用割合は約7%程度で平均水準より低く、こうした項目を個人属性と掛け合わせて分析することで、単純な仮説では説明できない行動の違いが見えてきました。
例えば「在宅勤務をしている人は外出が少ない」と思いがちですが、実際には二極化しており、外出が少ない層もいれば、在宅勤務をしながらも、育児・介護・看護などの家庭の仕事と組み合わせた外出をする層もいます。年代によっても違いが出ますし、家庭内の役割を担う方の行動も含めて、単純ではない。こういう「分からなかったことが分かる」こと自体が、都市政策を考えるうえで大事だと思っています。
さらに、データの利活用を進めるうえでは、3D都市モデルなどもベースにしながら、拠点化が進んだときに都市がどう変わるのかを、庁内をはじめ市民にも共有していきたいと思っています。
最後に、LRT(ライトライン)東側だけでなく、西側延伸ともPT調査は強く関係しています。令和4年の調査結果は、西側のLRT(ライトライン)の需要予測にも使っていますし、平成26年の広域調査のデータも需要予測の前提として活用しています。西側は用地買収なども絡み、整備には時間がかかる面がありますが、都市計画手続きも進めています。広域的なネットワークの観点では、LRT(ライトライン)と東武線との接続により、壬生町や栃木市方面まで含めた動きも出てくる可能性がありますので、県や東武鉄道、宇都宮市で勉強会も始まっています。少しずつでも広域的な視点で連携が深まっていけば、より魅力のある移動圏がつくれると思っています。
LRT(ライトライン)開業による再開発が見込まれる宇都宮駅の西側。
私は、PT調査は「一度やったら終わり」ではなく、都市の健康診断として、継続していく価値がある調査だと思っています。まちづくりの効果を検証し、必要なら軌道修正し、次の施策を組み立てる。市民の行動がどう変わったのかを根拠をもって説明する。そのために、宇都宮市としてPT調査を継続し、これからもデータに基づくまちづくりを進めていきたいです。
次回、第2回のインタビューでは「移動を伴わない活動を知ることで見えてきたコロナ後の新しい”生活行動”」についてお届けいたします。

