宇都宮市2026.03.23

PT調査が導き出す、
都市の課題と独自の未来像

Vol.2 移動を伴わない活動の
調査で見えた“新しい生活行動”

コロナ禍を経て在宅勤務やオンライン授業、ネットショッピングなど「移動を伴わない活動」が広がり、従来の「移動だけを取るPT調査」では都市の実像を捉えきれなくなっている。
宇都宮市は令和4年度に、PT調査を在宅勤務・育児・介護・デジタルコンテンツ利用まで尋ねる「都市活動調査」へ拡張し、在宅でも「外に出る人」と「ほとんど外出しない人」の二極化や、ニュータウン・ゆいの杜という(地域)拠点の“生活圏”としての完成度(充足度)など、NCCの現在地を住民の具体的な行動から可視化し始めている。

「移動だけでは都市は見えない」──都市活動調査に拡張

宇都宮市が令和4年度のPT調査で踏み込んだのは、「どこへ移動したか」だけでなく「家で何をしていたのか」まで含めて、一日の過ごし方そのものを押さえる設計に変えた点です。

宇都宮市都市整備部都市計画課都市計画グループ 係長 髙秀賢史さん。「NCC形成ビジョン」を掲げ、宇都宮市の未来を見据える中心人物。

背景には、コロナ禍を経て在宅勤務やオンライン授業、ネットショッピング、デジタルコンテンツ視聴など「移動を伴わない行動」が急速に広がり、従来の移動を伴う活動を対象とするPT調査の枠組みでは、ネットワーク型コンパクトシティ(NCC)の実像を測りきれなくなっているという問題意識がありました。

令和4年度調査では、通常のPT調査の調査項目に加えて、在宅勤務やリモート授業の有無・実施頻度、ネットショッピング(日用品以外)の購入回数、デジタルコンテンツの一日当たり利用時間、自宅での育児・介護・看護の有無などの調査項目を設定しています。

オンライン会議の時間やネットショッピングの回数まで質問項目に入れたのが功を奏した。

調査に協力いただいた市民の方は項目が増えて大変だったと思いますが、私は「これは聞いておいてよかった」と感じています。

一日の行動と、日常的なオンライン活動、看護や介護等のケア労働を同じデータベース上で見られるようにしたことで、私は「同じ在宅勤務でも、どの年代・どの家族構成の人が、どこまで外に出ているのか」といった細かな行動パターンまで読み取れるようになったと感じています。

在宅勤務は「こもる人」と「ついでに出る人」に分かれる

調査の結果、在宅勤務の実施率は約4%と、全国PTで報告されている地方都市圏の平均値と同程度だったものの、その内側では行動の二極化がはっきりと見えてきました。
一つは、一日を通じて自宅からほとんど出ない“フル在宅”層で、もう一つは在宅勤務をしながらも買い物や私的な外出を組み合わせる“ついで外出”層であり、「在宅勤務=外出が減る」という前提が必ずしも成り立たないことがデータで確認できました。

年代別に見ると、30〜40代には在宅勤務時間の多くを自宅で過ごし外出頻度が低い層が目立つ一方で、20代や50〜60代では在宅勤務をしていても短時間の買い物や趣味の外出を行う人が多く、在宅勤務の意味づけが世代によって異なることもうかがえました。

デジタルコンテンツの利用時間でも、長時間視聴している人ほど「引きこもりがち」と想像しがちですが、実際には外出を組み合わせるパターンも一定数あり、オンライン・オフラインを行き来する生活スタイルが広がっていることが浮かび上がりました。

こうした細かな行動パターンまで見通せたのは、一人ひとりの一日の全トリップと属性をセットで押さえるPT調査ならではの特性があったからだと感じています。

育児・介護と外出行動──生活圏のリアル

「在宅勤務」の状況と同時に、自宅での育児・介護・看護の有無を尋ねました。その結果から、ケア労働と外出行動の関係を分析しています。
結果として、育児・介護などの家庭の仕事を担う人は女性に多いものの、その中にも外出頻度の高い層が存在し、「ケアを担っている=家にこもりがち」という単純なイメージとは異なる姿が見えてきました。

たとえば、育児中でも近場への買い物や用事で外出しているケースが多く見られます。このことからは,徒歩圏や短距離移動を支える、いわゆるラストワンマイルのモビリティが確保されていれば、ケアと外出を両立しやすくなり、より暮らしやすくなることが示唆されていると感じています。

https://www.city.utsunomiya.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/032/650/2308-1.pdf 2枚目左
【出典】広報うつのみやプラス「変わる!広がる!宇都宮の公共交通」(令和5年8月号)
街中の回遊性を高める公共交通と端末交通の接続を充実させていきたい。

一方、ゆいの杜のように住宅や生活利便施設を集約した郊外拠点では、「エリアの中だけで生活が完結する」姿を想定して分析しましたが、令和4年度時点では他エリアと比べて顕著な“エリア内完結”パターンまでは確認できず、NCCの目指す生活圏像はまだ形成途中にあると私は見ています。

「外出しない社会」と道路・公共交通のこれから

こうした都市活動データは、LRT(ライトライン)の利用行動だけでなく、道路や公共交通の今後を考えるうえでも重要な手がかりになると考えています。
外出そのものが減る傾向や自宅で完結する活動の増加が確認されれば、例えば、人口増加期を前提に計画された未着手の都市計画道路について、「本当に整備が必要か」「別の用途に転換できないか」といった見直しの議論を進める際の根拠になり得ます。

【出典】都心部まちづくりプラン(令和6年2月)
https://www.city.utsunomiya.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/031/668/planhonpen.pdf p.75より
PT調査などの結果から得られたデータを元に、さまざまな指標を組み合わせて、よりよい街づくりを進めていく。

一方で、市の複数の部局が同じデータを使って、LRT(ライトライン)や新モビリティ施策の“需要のあたり付け”にも取り組んでいる点も重要だと感じています。
たとえば、交通政策部門で高齢者でも乗りやすい三輪型のシェアモビリティ導入を検討する際には、対象エリアに住む年代構成と活動のしやすさを都市活動データから抽出し、「どのゾーンなら一定の利用者が見込めるか」を事前に試算するなど、政策立案の壁打ちツールとして全庁的に(庁内横断的に)活用しています。

都市活動データを「都市の健康診断」に

宇都宮市は、PT+都市活動調査を単発の交通調査ではなく、都市政策・交通政策・LRT(ライトライン)整備など複数部局で共有する「都市の健康診断データ」と位置づけています。
都市政策部局、交通政策部局、LRT整備部局が同じデータを使うことで、財政部局への説明や、市民へのEBPM(証拠に基づく政策立案)の説明にも一貫した根拠を示しやすくなっていると聞いています。

駅西側ライトライン延伸を見据え、令和4年2月に「都心部まちづくりビジョン」を策定し、都心部のまちづくりを推進。
【出典】都心部まちづくりプラン(令和6年2月)
https://www.city.utsunomiya.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/031/668/planhonpen.pdf p.2より

次回の令和8年度調査では、LRT(ライトライン)東側開業から3年が経過し、「乗ってみたい需要」が落ち着いたタイミングで、公共交通への転換やNCCの進み具合を同じ設問設計で追跡する計画です。

市は、この最新データをもとに道路空間の再配分やバス路線の再編、都心のウォーカブル化、LRT(ライトライン)の西側延伸や将来の広域ネットワーク構想の妥当性を検証し、「古い数字ではない、今の市民の行動」に基づいて都市施策を展開していくことを目指しています。


次回、第3回のインタビューでは、「LRTと“宇都宮モデル”が示す地方都市の未来」についてお届けいたします。