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自治体のまちづくりに「都市交通調査ガイダンス」を
どう活かすか
前編:新しい都市交通調査が求められている時代
プロフィール
谷口 守
筑波大学
システム情報系社会工学域 教授
京都大学大学院工学研究科博士後期課程単位取得退学。工学博士。京都大学助手、カリフォルニア州立大学バークレイ校客員研究員、岡山大学環境理工学部教授などを経て2009年より現職。専門は、都市・地域計画、交通計画、環境計画。全国都市交通特性調査検討会委員長、東京都市圏総合都市交通体系調査技術検討会委員長、新たな都市交通調査体系のあり方に関する検討会座長など、都市交通調査に関わる多くの委員を歴任。
田中 成興
国土交通省都市局都市計画課
都市計画調査室長
1999年、建設省に入省。まちづくりに関する分野を中心に従事し、草津市役所、首都高速道路(株)、JICA長期専門家(ミャンマー建設省)などでの幅広い業務も経験。まちづくり推進課国際競争力強化推進官、市街地整備課拠点整備事業推進官、街路交通施設課街路事業調整官などを経て、2024年7月より現職。
近年、都市や交通を取り巻く状況は大きく変化している。都市交通調査もそうした状況の変化への対応が求められている中、令和6年6月、「総合都市交通体系調査の手引き(案)」が改訂され、「都市交通調査ガイダンス」として公表された。
各自治体の担当者は、このガイダンスをどのように利用し、まちづくりにどう活かすべきなのか。検討会の座長を務めた筑波大学・谷口守教授と国土交通省都市局都市計画課都市計画調査室・田中成興室長に話を伺った。
都市交通調査ガイダンス改訂の背景
田中成興室長
田中室長:
今回のガイダンス改訂の背景には、3つほど要素があります。
まず1つ目は、近年、人の移動のあり方が大きく変化したことです。平成30年に行われた東京都市圏PT調査において、10年前と比較して初めて総トリップ数が減少し、外出率も減少という調査結果が出ました。インターネットの普及で余暇の過ごし方が変わったり、ネットショッピングが普及したりとさまざまな背景があると思いますが、確実に移動と活動の関係性が希薄になっている。また、コロナ禍でテレワークが進んだことで、その傾向にさらに拍車がかかりました。
“移動と活動の関係性”が希薄になったということは、移動の変化だけ調べてもその裏で何が起きているのか分からなくなったということです。そういったニーズの変化も踏まえて、新しい調査のあり方が求められるようになってきたのではないか、というのが今回のガイダンス改訂のきっかけの一つです。
2つ目は、「しっかりとしたエビデンスに基づいて政策を進めていきましょう」ということが強く言われるようになったこと。そのためにも、自治体が調査に取りかかるハードルを下げることが大事でした。
3つ目がデジタル技術の進展などにより、調査や分析にさまざまな技術を活用できるようになったことかと思います。
まちづくりとPT調査の関係性・重要性
谷口守教授
谷口先生:
パーソントリップ調査(以下、PT調査)には、都市圏単位で実施するものと、全国を対象に実施するものの2つがあります。
都市圏PT調査は、東京や大阪といった大都市圏では継続的に実施されていますが、人口規模の小さい地域ではなかなか進んでいないというのが実情です。人口減の自治体では担当者もいないなど、苦労もあると思いますが、過疎の問題を解決するにもPT調査が必要だと考えています。
田中室長:
そうですね。時代とともに人の動きが変わってきているということを、これだけの規模や精度で把握できるというのはPT調査くらいなので、色々なところで使っていただきたいと考えています。
谷口先生:
まちづくりにおいて、PT調査の重要性は上がっていますが、その重要性が社会的に認識されていないことが問題です。「デジタル技術の発展によって位置情報が分かるのであれば、それで十分だ」という話になり、「わざわざ交通調査にお金をかける必要があるのか」と考える人が増えてきている。
ビッグデータによる人流データとPT調査はまったくの別物です。しかし、その違いを担当者がきちんと理解しているかどうかが、各自治体のまちづくりの大きな差になると思います。
ビッグデータだけでは人の活動が見えてきません。ですから、政策が打てない。要するに携帯の基地局データでは、どこに誰がいるのかということは分かるけれども、「その人がどんな人で、何のために、どういう手段で来たのか」という情報は基本的に取れません。また、特定の人に偏ったデータとなっているなどさまざまな課題があります。しかし、PT調査はそのあたりを全部踏まえたデータが取られているので、政策に使う上で一番適しています。
田中室長:
PT調査は本来的には全ての自治体にやって欲しいと思っています。これだけ世の中の動きが早い中で、EBPMを重視し、PDCAサイクルを回して政策決定できるようにするためには、データを新しく更新していくことが必要です。ただ、自治体にとっては、コストや人材面などハードルがあるのも事実です。
谷口先生:
大都市圏はニーズがあり、比較的合意形成しやすいのですが、ローカルになると、田中室長がおっしゃる通り難しくなってきますね。
ただ、都市計画の研究者としては、自国の交通の状態がどうなっているのかは把握しておくべきだと考えています。ちょうど我々が人間ドックを受けるような形で、数値として各都市の交通がどうなっているのかという基本的な情報が統一的な基準で取れていないのは恥ずかしいのではないかという感覚です。そのためにも今回の「都市交通調査ガイダンス」が各方面で役に立ってくれたらと思っています。
次回、後編のインタビューでは「多様化するまちづくりを実現させるために」をテーマにお届けいたします。