松山市2024.04.10

加速する人口減に負けない
魅力的なまちづくりに挑む松山市

Vol.2 回答率アップと充実した
調査内容の最適解とは

前回の記事「16年ぶりにPT調査を実施した理由」に続き、今回は松山市が効率的な調査実施に向けて行なったさまざまなポイントを紹介する。
「過去の事例からPT調査の成果をPRし市民の理解を深めたこと」や、「返送先を市役所に設定したこと」、「オンライン回答へのインセンティブを設定したこと」、「人の活動に焦点を当てて付帯調査を実施したこと」といった独自の事例が多くの気づきを与えてくれるはずだ。

PT調査を通じて「まちづくりへの意識が変わった」と言う松山市都市整備部 都市・交通計画課 副主幹の依光慶典氏。松山アーバンデザインセンターでのインタビュー。

前回の調査に基づくまちづくりの成果を周知

今回、2023年5月から6月にかけて実施したPT調査の回答率は全体で約28%でした。前回はかなりのコストをかけて一軒一軒訪問調査を行ったので、その結果と比べると数字は落ちますが、全国平均(約25%)と比べると健闘したほうかなと感じています。
そこで、限られた予算の中で、少しでも回答率を上げるために工夫したことを紹介します。
まず松山市ではPT調査の意義を市民の方々に理解していただくためのアナウンスを徹底しました。

PT調査を行う準備段階として、PT調査の意義を市民にアピール。

そのために、紙媒体の広報以外に、過去のPT調査のデータの活用事例や整備事例を掲載したポータルサイトを新規で設置しました。
具体的には、松山城下の「ロープウェイ通りの整備」やまちの中心部の「花園町通りの整備」、「交通結節点の整備」といった過去の事例を紹介したのですが、普段の生活から感じられる変化もPT調査のエビデンスが基になっているということを丁寧に説明することで認知とご理解をいただけたと思っています。
また、PT調査は総合交通戦略や都市計画マスタープランなどの各種計画の策定に活用していることも説明し、その計画に基づき、現在は松山市駅前広場整備やJR松山駅周辺整備を進めています。

再開発中の松山市駅前の完成イメージ。松山市は「歩いて暮らせるまちづくり」を目指し、まちの中心部の活性化とにぎわい創出を目標としている。

将来的には四国新幹線の導入も期待され、高架化が急ピッチで進められているJR松山駅。    

調査票の回収率向上に向けた工夫

調査票の回収にあたって郵便局と連携できたのは大きなポイントのひとつだと思います。
郵便局にはご負担をかけたと思いますが、調査票の返信の宛先を民間のサポートセンターではなく、市役所の「都市・交通計画課」にさせてもらえたことが安心感に繋がったのではないでしょうか。
個人情報を集めたデータになりますので、全国PTに併せた調査では市民の方から「この調査は本物なのか」というお問い合わせも多くいただきました。その経験を活かして、今回は市役所宛にできたことも回収率の向上に寄与していると思われます。

matsuyama2_05.png「松山市 都市整備部 都市・交通計画課」が宛先となっている調査票の返信用封筒。「郵便局の全面的な協力が不可欠でした」と依光氏。

正直なところ、若年層の解答率が期待していたほど上がらなかったのは残念ですが、40代以上からは満足いく結果が得られたと思います。
人的コストを削減するために、オンラインでの調査も実施しました。オンラインの解答率は全体の36%です。途中離脱もありましたが、システムの設計段階でなるべく入力しやすいような工夫(位置情報の簡単な入力、入力の一時保存の設定など)をして調査にあたりました。
また、オンライン回答者へのインセンティブとしてQUOカードを配布したことも、少なからず回収率が向上した要因のひとつです(500円を1000名に抽選)。

そのまちに最適な調査票を作成する

PT調査を行うにあたって感じたのは、何よりも準備が大切ということです。
庁内の関係各所とのやりとりや折衝はもちろん、松山都市圏として正確な人の流れを把握するために、周辺自治体との協力は不可欠でした。
調査を行う側としては、実際に調査票を作る段階に入ると、ついつい「あんなデータもほしい」「こんな質問も加えたい」と調査項目が多くなりがちです。

「PT調査の結果を各方面にフィードバックして今後のよりよいまちづくりに役立てたい」と依光氏。

そこで大事になってくるのは、第三者の視点や学識経験者との密なコンタクトを重ねることです。紙面でもWebでも、調査の狙いと照らし合わせ、取得したいデータと回答率との兼ね合いを鑑みながら、より効率的に、よりよい調査を実現するために何度も精査を重ねて検討を繰り返しました。
人の移動に関する基本的な質問項目に加え、「松山市独自の調査票づくり」を目指しました。
そのひとつは、「賑わい創出の指標調査」として、「移動」項目に「移動先での消費額」を追加したことです。また、1日の調査だけでなく、2週間という比較的長期単位のデータも取りました。

PT調査はよりよいまちづくりを目指すために行う調査です。人口減と高齢化という課題に立ち向かうための質問項目も付帯調査として付け加えました。
具体的には、長期的な移動を見るための「住み替え」項目(年収についても付加)と、高齢者の「運転免許返納」に関する質問項目などです。
これは中山間地域での乗り合いタクシーの利用率を上げるためにぜひ取得したかったデータですし、運転免許の返納予定時期やその理由も質問項目に加えたことで市民の意識を探ることもできると思っています。

これからPT調査実施を考えている他自治体へのメッセージ

最新のPT調査の結果は、10年後、20年後のまちづくりに役立つ重要な基礎データになるはずです。
まちの規模や人口動態、エリアの特性などによって、質問項目はおのずと変わってくるはずですが、大切なのはやはり地域課題に合わせた調査票づくりではないでしょうか。
松山市では2023年に取得したデータ結果を元に今後はマスタープランの見直しや、中心部だけでなく郊外の地域生活拠点におけるまちづくりにも役立てていきたいと思っています。


今回は、2023年に3度目となるPT調査を実施した松山市の担当者に話を伺った。過去2回の調査方法や得られたデータから、限られた予算の中で、いまの時代に合った方法を模索しながら調査に取り組む姿勢が印象的だった。人口減少、超高齢化といった100年先のまちづくりのイメージを市民と共有しながらPT調査を行うには、入念な準備が欠かせない。松山市は学識経験者やアーバンセンターなどと足並みを揃え、官民一体となって調査に取り組み、よりよいまちをデザインしようとしている。地域独自のまちづくりを進める上でも貴重な参考事例になるはずだ。


取材地

「松山アーバンデザインセンター(UDCM)/ もぶるラウンジ」について

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愛媛県松山市をフィールドに活動している公民学連携のまちづくり組織です。松山アーバンデザインセンター(UDCM)および、併設のフリースペースもぶるラウンジの運営をしています。

  • 住所〒790-0005 愛媛県松山市花園町4−9 岡田ビル 1階
  • 開館時間平日10:00〜19:00 土日10:00〜17:00
  • 休館日祝日・お盆・年末年始など