松山市2024.03.27

加速する人口減に負けない
魅力的なまちづくりに挑む松山市

Vol.1 16年ぶりにPT調査を
実施した理由

すでに多くの自治体が危機感を募らせている人口減にかかわる問題。四国最大の都市・松山市も例外ではない。人口問題研究所によれば、現在約50万人を抱える松山市の人口が100年後には約16万人になるという予測が出ている。
時代の変遷とともに、都市交通をはじめとしたまちづくりのあり方が変わりつつある今、松山市は2023年5月、16年ぶりにPT調査を実施。PT調査データから、これまでの取組成果を可視化することで、官民一体となり、エビデンスを基に理想のまちづくりへ向けて邁進中だ。

松山市都市整備部 都市・交通計画課 副主幹の依光慶典氏。「以前はまったく畑の違う農林土木課に所属していたので引き継ぎは苦労しましたが、調査が無事に実施できて、ほっとしています。」

100年先を見据えたPT調査

2016年に市民向けに作られたパンフレットに、こんなキャッチコピーが並んでいました。
〈松山が、なくなる日〉
当時、私は別の部署にいたのですが、一市民として自分の住むまちがなくなる可能性を突きつけられて、衝撃を受けたことを憶えています。

matsuyama1_02.jpg(「松山市まち・ひと・しごと創生総合戦略啓発パンフレット」より)

松山市は2010年から人口減のフェーズに入りました。100年後には人口が現在の約1/3の16万4000人にまで減るという予測もあり、市としても人口問題を喫緊の課題として捉えて、「松山創世人口100年ビジョン」と「松山創世人口100年ビジョン先駆け戦略」を策定し、100年後も活気に満ちた都市であり続けることを目指しています。

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「人口減」「超高齢化」という課題を見据えながらまちづくりを進めるには、人の動きを可視化できるPT調査が欠かせません。
松山都市圏では、これまで2回のPT調査を行ってきましたが(1979年/2007年)、今回、3回目の調査を実施しました(2023年5月)。

(「松山市まち・ひと・しごと創生総合戦略啓発パンフレット」より)

PT調査の有用性の共通理解

16年ぶりにPT調査を行うに当たって、いろいろな課題も見えてきました。担当者としてまず個人的に一番の問題だったのは「引き継ぎ」です。
私自身は、今回の調査の準備が始まってから都市・交通計画課に異動してきたので、「PT調査とはなんぞや」というところから始めたこともあり、周囲にも迷惑をかけたかと思います。

第3回目のPT調査を準備段階から担当している依光氏。松山アーバンデザインセンターでのインタビュー。

ノウハウの引き継ぎが難しいのは、前回調査から10年、15年と空くと仕方のないことかもしれません。ただ、実際、古い資料を見ながら手探りで進めざるを得なかった部分などは、時間のロスにも繋がることから、次回の調査に向けた反省材料のひとつとして考えています。
また、まずは市民の方々にPT調査の有用性を理解していただけるよう気を配ると同時に、庁内においても、合理的根拠に基づく将来の交通やまちづくりの計画策定にはPT調査が欠かせないとアナウンスする機会を増やすよう心がけました。
準備段階の予算組みや運営組織編成などは、何度も庁内の関係部署や周辺自治体と綿密な協議を重ね、実際の調査内容に関しては学識経験者や松山アーバンデザインセンター(UDCM ※1)の協力を得て作り込めたと感謝しています。

※1 松山アーバンデザインセンター(UDCM)は、全国に展開するアーバンデザインセンター(UDC)のひとつ。UDCは行政都市計画や市民まちづくりの枠組みを超え、地域に係る各主体が連携し、都市デザインの専門家が客観的立場から携わる公・民・学連携のプラットフォーム。

コンパクトな予算で調査を実現する

また、これは当たり前のことなのですが、PT調査は時と場所によってその方法や目的も違ってくるということに担当者になって初めて気づきました。松山都市圏という同じ場所の調査をするにも、調査の方向性や内容が時代によっておのずと変わってきます。

市民の日常の足になっている路面電車(伊予鉄道)。1950年代に製造された車両も現役。 

高度経済成長期に行われた1回目の調査(1979年)は、人口増加と市街地の拡大に対応すべく、道路整備が主な目的でした。前回の2回目の調査は将来人口は減ることが見えていたものの人口自体は若干増えていた時代で、いち早く自転車や徒歩など「遅い交通」にも着目していましたが、コロナ禍を経て、急速に変化している人の動きの実態を知る必要がありました。
そのため、今回の3回目の調査では、松山市周辺の自治体とも協力し、将来の人口フレームを見据えた上で、広い地域(ゾーン)を対象にしたPT調査を実施しました。また「住み替え」による長期スパンでの移動も把握するよう務めました。

調査の準備を進めていくと、「あれもこれも」と欲が出てさまざまなデータが欲しくなるのですが、質問が増えれば調査票の回収率が下がり、発送数の増加は費用の増加に繋がります。
コンパクトな予算で調査が実現できるよう、質問の数や内容にも工夫を凝らしました。
たとえば調査方法。前回はそれなりのコストをかけて訪問調査を行ったのですが、今回はビッグデータの活用やオンライン調査(Web調査)の組み合わせを検討することで、調査費を抑えることができました。

PT調査の成果の今後の活用予定

今後は集計したデータをまとめてマスタープランを作成するフェーズに入ります。今回のPT調査の結果は、さまざまなアプローチでこれからのまちづくりに役立ってくれるでしょう。
現在、松山市では、人中心のまちづくりを進めるために、地元の商店街を巻き込んで積極的に賑わい創出の機会を増やしています(松山市駅前の花園町西通りは、駅前の再開発に合わせて、老朽化したアーケードを撤去。毎月第4日曜日には日曜市が開催)。
しかし、歩行空間や広場整備といった賑わい創出の事業は対費用効果が見えづらいことが課題で、なかなか共感を得られづらいのも事実。そこで、今回のPT調査の結果で、人の流れの変化が可視化できば、その課題についても解消できると思います。

古いアーケードが撤去され、明るく開放的になった花園町西通り。日曜市には大勢の人が集まる。

また、人口が減り続けていく中で、これまで長年取り組んできた施策が本当に必要なのか、「再検討の余地あり」という事実も今回のPT調査で浮かび上がらせることができると考えています。
さらにPT調査に加えて、プローブパーソン調査やビッグデータの活用も検討中です。


次回、第2回のインタビューでは「調査の回答率を最大限に上げるために」についてお届けいたします。